新年のご挨拶


新年の始まりにあたって、過去一年の活動の報告と今後の抱負をお伝えしようと思います。

2001年も忙しい一年でした。
この一年の形になった収穫は、まず、単行本としては7年ぶりに『アジアからのネット革命』(岩波書店)を6月に出すことができたことでした。97年から三年間のマレーシアを拠点にした活動の報告をまとめたものです。幸い増刷にも漕ぎ着けました。

・研究活動
 研究活動として主に取り組んだテーマは、国際分野で<開発とIT>と<インターネット・ガバナンス>、国内では<HomeLAN>と大分を拠点にする<地域ネットワーク>です。
 <開発とIT>については、沖縄サミットで設置されたデジタルデバイド問題に取り組む「DOTフォース」に、2000年暮れから公文俊平国際大学GLOCOM所長が日本のNPO代表となり、私もGLOCOMの同僚、アダム・ピーク研究員と実作業にかかわってきました。3月に南アフリカのケープタウンで、4月にイタリアのシエナで、それぞれ会合が開かれ、その結果が「ジェノア行動計画」として、7月のジェノアサミットで先進国首脳によって正式に採択されました。10月からはいわば「フェーズ2」として、実施段階に移行してさらなる取り組みが続いています。

 GLOCOMとしては、経済問題に収斂されない「知的デバイド」問題を取り上げ、途上国の市民がネットを活用して知的にエンパワーされる可能性を追求しようとしています。その一つがインターネットのドメイン名やIPアドレスを管理する国際組織ICANNへの途上国の実質的な参加を支援するプログラムで、もう一つが、カンボジアの文字コードの標準化問題のケーススタディです。11月には東京で国際会議「デジタルオポチュニティ・フォーラム」を開催し、12月にはカンボジアを訪れ、現地調査をしてきました。クメールルージュによる虐殺の傷がまだ癒えてない事実が迫ってきました。

 <インターネット・ガバナンス>では、ICANN に98年の発足当初から継続的にかかわってきました。とくに焦点となっているのがその会員制度で、2000年に実施された役員選挙が契機となって制度の見直しが進められてきました。この問題に、5大陸のメンバーが自発的に集まってNAIS(NGO & Academic ICANN Study)というグループを形成し、共同研究・実践を行ってきました。NAISは昨年8月に報告書・提言をまとめ、論争の一方の極を形成しています。
 これらの活動を通して、ときに先進国側の「デジタル植民地主義」とでもいうべき無意識の傲慢さに辟易しつつ、自分もそうした側に立っていることを痛感させられるのでした。

 <HomeLAN>は、企業および個人有志の皆さんに会員になっていただいて研究会を組織し、具体的には、大阪の川上博久さんにお骨折りいただき、イーサネット経由で家電製品の操作ができるプロトタイプを開発し、実証実験を試みました。ただ、後半は私が出張続きのせいもあって「息切れ」状態となり、現在立て直しを図っています。報告書を近日出す予定です。
 <地域ネットワーク>では、93年の設立以来かかわってきた大分のハイパーネットワーク社会研究所での、大分県域に新しい高速のギガビットネットワークを構築し、利用の普及を図るプロジェクトの支援作業が中心です。今年は11月に「別府湾会議」を開催し、韓国、カナダ、スウェーデンからゲストを招くとともに、国内各地の最先端で地域ネットの実践に取り組んでいる人たちと親しく交流することができました。


・テロの日NYに・・・、出張と「遊牧民族」と
 DOTフォースとICANNを中心に海外出張に出かける日々が続きました。あの9月11日の朝8時半、たまたま南米ウルグアイからブエノスアイレス経由でニューヨークのケネディ空港に着陸するというめぐり合わせで、世界貿易センターがテロ攻撃で崩壊する前後に、現場から遠くない場所にいました。着陸前、飛行機の窓からは朝日に白く輝くツインタワーがはっきり見え、タクシーから黒煙に包まれたビルを目撃し、そしてラジオが崩壊のニュースを伝えたときはただ煙しか見えなくなりました。その後、公文先生とアダム・ピークと3人で、飛行機が飛ばない米国国内からカナダのオタワ、モントリオールへとレンタカーでドライブする経験もしました。たしかに「世界が変わった」と実感はしていますが、主体であるわれわれが、どこへどう変わっていけばよいのかと問うと、逡巡も混迷も隠せません。

 海外出張は以下のように14回(16件)、計110日を越えました。もう若くないので、さすがに体力的にはきついと感じましたが、とりあえずは元気です。ただし、これだけ回数が多くなると、そのつどきちんとまとめ作業をすることが難しく、そこに大きな課題を感じています。

 国内出張は21回、うち大分に18回行きました。大分のハイパー研も、県内にギガビットの幹線ネットワークを展開する構想の調査・実践を積極的に推進し、東京から「遊軍」として通う回数が増えています。11月には二年に一回の別府湾会議を開催し、カナダとスウェーデンの光ファイバーのパイオニア、そして韓国のブロードバンドを推進する若手に来てもらい、日本から学ぶ機会をつくりました。

韓国はこの二年間で計五回訪問しました。わずか三年で、経済危機のどん底からブロードバンドの普及率で世界一になるという驚異の変化を目撃しました。見てきたことの多くは、『アジアからのネット革命』のなかに盛り込みましたが、その後の変化も激しいようです。日本は、この韓国を始めとするアジア諸国から学ぶべきことがますます多くなってきたのではないか、というのが率直な実感です。

・2001年の出張先

1月25日-29日 アトランタ INETプログラム委員会
2月25日-27日 クアラルンプール APRICOT会議
2月27日-3月5日 ケープタウン DOTフォース会議
3月8日-14日 メルボルン ICANN会議
4月21日-27日 シエナ DOTフォース会議
5月2日-5日 ソウル インターネット実態調査
5月9日-13日 ニューヨーク NAIS会議
5月30日-6月11日 ストックホルム INET2001およびICANN会議
7月3日-5日 ソウル インターネット関係会議
7月18日-28日 ニューヨーク NAIS会議 アスペン研究所インターネット・ポリシープログラム
9月4日-10日 モンテビデオ  ICANN会議
9月11日-27日 GLOCOM調査出張(ニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントン、オタワ、モントリオール、オックスフォード、ロンドン、ストックホルム、ヘルシンキ/公文所長に同行)
10月8日-11日 モントリオールDOTフォース会議
10月23日-27日 ニューヨーク NAIS関連会議
11月10日-14日 ロサンジェルス ICANN会議
12月8日-15日 カンボジア DOTフォース現地調査


今年の課題
 これだけ海外出張を続ける自分は、たしかに「遊牧民族」なのだと自覚しています。インターネットに関連する国際分野で、日本およびアジアから積極的に発言、発表する人がまだまだ少なすぎるというのは事実で、日本にとってそこが大きな課題だと思い、僭越ではありますが、自分ができることは可能な限り挑戦しようという気持ちでいます。
1997年、クアラルンプールにアジアネットワーク研究所(ANR)という小さくても独立したユニットをもったことは、自由と責任を与えられ、大きな意義がありました。教訓も限界も感じてきました。
今年は、独善に陥らないように、仲間をつくり、若手が育つ環境をつくることが重要だと認識しています。その意味で、GLOCOM(1991年設立)とハイパー研(1993年設立)という、自分が設立に立ち会った二つの組織には、今年は今までより以上に緊密な関係でかかわろうと思っています。GLOCOMは早いもので昨年設立10年を迎えました。初代所長の村上泰亮先生が93年に急逝された後、公文先生のもとで第二期に入ってからでも、8年が過ぎたことになります。ハイパー研は、大分中心の体制づくりが大きな課題で、今年はそれをさらに加速させます。

同時多発テロ事件を受け、グローバリゼーションのあり方が問われるなかで、<開発とIT>問題の重要性は増していると思うのですが、一方、資金的な面を含めた認知・理解度はまだまだで、努力が必要だと実感しています。
ICANNの会員制度も、何らかの形で「決着」がつくまで、かかわり続ける責任があると思っています。次の会議は三月、ガーナのアクラです。その前にアジアのインターネットの一大会議であるAPRICOTがバンコクで開催されます。
 
 できれば英語でのまとまったアウトプットを出したいと考えています。年内に完成できるとはとても思えませんが、少なくとも着手はしようと思っています。
 その他、課題は山積しています。時間と能力には限りがあり、とくに今年は50歳を迎える年で、いつまでも若いわけではない、との自覚も深めています。(と書いたのですが、テレビでは93歳まで現役指揮者を続けて亡くなられた朝比奈隆氏の番組を流しています)。
 
ともあれ、これまでの歩みを生かしつつ一歩一歩着実に進みながら、なおかつ新しい飛躍をと、欲張ったことを考えております。

 それでは、今年が私たちすべてにとって、希望と喜びに充ち満ちた一年となりますよう。本年も変わらずご支援、ご指導のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

2002年1月7日

会 津  泉 


お知らせとお願い

  • 雑誌『インターネット・マガジン』でグローバルガバナンスをテーマに連載を始めました。よろしければどうぞご覧ください。

  • マレーシアに行く前年に始めた個人メーリングリスト、「iznews」、参加者が600名を超えました。ご興味のある方、メールをくだされば登録いたします。半分が私の近況報告、残り半分が参加メンバー同士の交流という位置付けです。バックナンバーがANRのホームページwww.anr.org に掲載してあります。

  • 最近のカンボジア出張の様子などの写真もホームページにアルバムにして掲載しました。

  • マレーシア時代に行く前から七年間にわたって私の秘書を勤めてくださった久保田香子さんが一昨年結婚され、昨年無事赤ちゃんを産まれたとのニュースも入りました。昨九月からは、新たに増田由美子さんに秘書としての仕事をお願いしています。

  • なお、このメッセージは、手元にある皆さんのアドレスに出したものですが、もしご所属、ご連絡先、メールアドレスが変更されていた場合などは、お手数ですがお知らせくだされば幸いです。 izumi@anr.org 宛にお願いします。



logo-s2.gif (株)アジアネットワーク研究所
〒152-0022 東京都目黒区柿の木坂1-28-15
TEL: 03-3725-3801  FAX: 03-3725-4960
E-mail : info@anr.org

Copyright(C) 2000-2002 (株)アジアネットワーク研究所