さらに深刻なY2K問題



『日経マルチメディア』連載 アジアネットワーク便り(99年2月号)



会津 泉

(アジアネットワーク研究所/クアラルンプール)



マレーシアの銀行から送られてくる残高通知には、Y2K問題の説明として「プログラム対策は終了し、あとはテストが残っている。詳しくはホームページをご覧ください」とある。「Y2K問題」は先号でも取り上げたが、年号を2桁で処理していたプログラムが2000年を「00」と省略すると1900年と解釈したり、入力エラーとして処理したりして、誤動作を招くという問題だ。

98年12月初め、日本から公文俊平GLOCOM所長をマレーシアに招いて世界の情報化革命についてのセミナーを開催した。話の重心はすべてY2K問題に置かれた。インターネット・プロトコル(IP)主体の新しいY2Kフリーの通信網が重要だ、完全な対策の実施はもはや「時間切れ」で社会インフラ全体に大きな障害が起きる可能性が高い、危機対応計画を緊急に準備すべきだ、と公文所長は熱っぽく説いた。

白状すると、私も最近まで「専門家がうまく処理してくれるに違いない」と高をくくっていた。しかし公文所長の指摘は具体的で、特に「埋込チップ」、つまり日付処理機能を内蔵した半導体が事態を深刻にするという。半導体は現代社会のあらゆるマシンで使われている。世界中には推定で700億の半導体があり、うち最低1%に日付処理機能が含まれる。そのさらに1%が誤動作しても70万個だ。どこで何に使われているかもよく分からない。砂漠のパイプライン、自動車のエンジン、化学工場の制御システム、飛行機のセンサーなど、数え上げればきりがない。

マレーシア政府は、MSC(マルチメディア・スーパーコリドール)推進策の一環として、「エネルギー・通信・郵便省」を、「エネルギー・マルチメディア・通信省」に改組した。その新マルチメディア大臣、レオ・モギー氏が政府のY2K対策プロジェクトを率いている。モギー氏と公文所長との夕食会でもY2Kが話題の中心となった。「電力、通信業界はまだよいが、医療業界が反応が悪い。これからテストをしなければならないのに問題意識がない」という大臣の言葉で、氏自らこの問題を真剣に考えている姿勢は明らかだった。

早速マレーシア政府と日本政府のY2K関連のホームページを比較してみた。結論からいうと、日本政府のY2K関連情報は量的にも質的にも恐ろしいほど貧弱だ。マレーシア政府は独自のドメインを用意し、問題の定義から企業・組織、個人のそれぞれの対策の立て方、主要国のリンク集、さらに「サバイバル・ガイド」まで用意している。「埋込みチップ」問題への言及もある。

一方日本は、首相官邸のホームページに対策本部の行動計画や議事録が掲載され、各省庁の関連ページへのリンク集がある。通産省や日銀などのホームページを見たが、表面的な情報しかなかった。98年11月時点の主要業界別対応の調査結果があったが、電力業界は対策完了が99年12月、テストは99年開始など、ペースが遅い。まるで危機感が感じられない。

欧米ではテストだけでも膨大な時間がかかり、「時間切れ」だとして、危機対応計画(コンティンジェンシ・プラン)の立案に重心が移っている。この分だと日本では99年半ばから大騒ぎになる。だがそのときでは手遅れという可能性もある。まずは「マレーシアに学べ」だ。米国はもちろん、オーストラリア、カナダ、シンガポールなどの政府のホームページは充実している。どうやら自衛を考えるのが先決のようだ。

■関連サイト
マレーシア政府Y2K http://www.y2k.gov.my
首相官邸ホームページ http://www.kantei.go.jp
シンガポール政府(NCB)  http://www.ncb.gov.sg






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