“インターネットの世界の「責任」とは”

インターネットガバナンスとY2K問題


1999年5月18日

国際大学GLOCOM研究協力委員会での発表記録


 | ガバナンス | | インターネットY2K | | 討論 |       ダウンロード:[Word97/98書類] [PowerPointスライド]

   

 以下は、GLOCOMが3ヵ月に1回、研究支援を頂いている企業幹部の皆さんを対象に研究報告を行なう研究協力委員会での、会津の発表の記録です。


はじめに
 私がマレーシアに移動してから2年間、アジアではたび重なる激動によって、景気が落ち込み、失業率は上がっている。アジア全体の経済のダウンスパイラルが起きている。マレーシアでは、急性症状は収まったが、基本的な経済の状態はまだ健康になったとはいえない。退院はしたが、静養中という感じだ。現場を見ていると、厳しい状況であることに変わりはない。
 今回のテーマは、“インターネットの世界の「責任」とは”。あえて責任に「」をつけたのは、インターネットは誰が管理しているのか、誰が責任をもつのかがはっきりしないといわれていて、その「責任」の定義、意識がどうなっているのかということを問題にしていかなくてはならないという基本的な問題意識からである。

問題の本質
 何が本質的な問題なのかを考えてみた。公文の理論によると、新しい智のゲーム、新しい富のゲームが始まっている。武力や経済力を背景にしたゲームだけでは、人間社会は動かなくなってきた。知的な力、説得や誘導などの論理が重要で、そこにインターネットやサイバースペースが広がり、必ずしも合理的でなくとも、多数の人が納得すれば、そちらの方向へ動いていく。
 インターネットでは、ドメインネームが使われる。ドメインとは領地、領域を意味し、ドメインネーム自体は単なる名前にすぎないが、その名前は誰がもつのかが問題となる。たとえば「sony」と言えば、誰でも知っているソニーが産業活動の領地を持っていた。そこに突然に違う人が、「sony.co.jp.」という名前をインターネット上で使いたいといった場合にどうするのか。法律的にはどうするのか。インターネットでは有名なマクドナルドの問題もある。マクドナルドという個人が先に「mcdonald.com」というドメインネームを取得したために、ハンバーガー会社から訴えられたのだ。この件については円満解決したが、同様の形でさまざまなトラブルが生じている。これは、誰がルールを決め、誰がそのルールに従うのかという基本的な問題である。

 智のゲームの担い手として、「ネティズン」(ネットワーク上に住んでいる市民)と呼ばれる存在がある。ネティズン達には、登録商標というものは、既存の商業や社会の権利であって、インターネットで認められる新しい権利と同一に扱うべきだというルールはどこにもないという意識がある。むしろサイバースペースは新しいフロンティアなのだから、旧世界の権利を主張するのはおかしいという論理である。

 他方、新旧を簡単に分けられる訳はなく、ネティズンといえどもハンバーガーを食べて、現実の世界に生きているのだから、論理的、抽象的にサイバースペースを主張しても意味がなく、既存社会のルールをなるべく延長し、適応すべきだという理論がある。現実的にはこの2つの勢力の利害は対立している。これをどうすればよいのか、というところに問題が生じる。いわばこれはサイバースペース革命だから、旧体制と武力衝突してでも、新しい権力やルールを作ろうと考えるのか、そうではなく、智のゲームとして話し合いや論理的な説得で平和革命をしようとするのか、というような対立である。

 かつての市民革命で、近代社会ができる時に、フランスではギロチンが活躍したが、イギリスでは名誉革命として、血を流さずに新しい勢力ができた。できれば、サイバースペースの新しい領土が広がる時にも、新旧勢力が一緒にコラボレーションをして、新しいルールを作っていけないものなのか。ネティズン達の中にも国籍や文化にかなり支配されている部分があり、考え方もさまざまだ。彼ら同士でネットワークを作り、主張や意見を共通のものにしていこうという動きもある。ここでは、論理は正しいというだけでは力を持たない。正しい論理を、これだけ多数の勢力が認めているからルールにすべきだという主張は、依然として行われている。同時にネティズン達だけではなく、国際電気通信連合(ITU)や世界知的所有権機構(WIPO)、アメリカ政府といった既存の体制や権力の代表である人達にネティズン達の主張を認めてもらい、同盟勢力を作ろうという動きもある。

 ドメインネームやインターネット・ガバナンスといった問題に加えてY2K問題にも、新しいシステムを作るにあたって、どういうルールを作るのか、システム自体をどうするのかという模索が起きている。抽象的だが、全体としてはそういうことが言えると思う。

日本企業の関わり
 日本の企業にはこれらの問題、特にガバナンスの問題に対して、これまでの関わり方はきわめて薄い。ネットワーク関連企業も、大なり小なりインターネットや情報ネットワークに大きなビジネス上の重みがあると思う。しかし、ネットワークビジネスに100%依存している企業がどれだけあるのかと考えると、日本では必ずしも多くない。逆にインターネットの問題が右へ行こうが、左へ行こうが、事業ユニットとしては問題になっても、企業全体の戦略としては多少の距離があると思う。
 たとえばマイクロソフトやYAHOOやNetscapeであれば、120%のステークをかけている感じがする。実際のかかわり方としては直接、間接の違いはあるが、インターネット・ガバナンスの問題に対しては、相当深い関わりをしようとしている。

 私自身、グローバルなルール作りと運用体制を作ろうとするプロセスに片足を入れてきたので言えることだが、できあがった枠の中で役員に立候補したり、実質的なポリシーを決めるということも大切だが、それ以前の、どういう組織を作るのか、どういう意志決定システムを作るのかという次元での争いや議論が起きているので、そこにかかわることがより重要だと痛感している。

 よくグローバルスタンダードと言われるが、残念ながら日本の場合は、外から来たルールとして受け止め従わなくてはならないという傾向が強い。インターネットの場合には、グローバルスタンダードをまず自分たちで作ろうという動きがあるのだが、日本や途上国はそのルール作りや議論に十分に参加することができていない。結果として、「席を空けて待っていたが発言がないのでこのルールでいいね」と、多く参加しているアメリカやヨーロッパの人達の主張が、全体の主張として通っていく可能性が高い。受身で議論に参加するだけでなく、全体的に議論をリードしていかなければ、自分たちが希望する形でのルール作りは難しい。しかし日本やアジアではそれに参加できる人間の数が不足しており、英語での議論が必要となるので負担が重い。インターネット上での議論は、提案や反対意見への反論をしつこくやらないとなかなか主張は認められない。「日本政府が言ったから」ということだけでは、提案は通らない。

 私のこれまでの行動は、2週間に1度電話会議を行い、その中身を自分の組織のメンバーに報告し、彼らの意見を吸い上げ、その結果を皆の意見として言い直す。また、2、3カ月に1度国際会議に出掛けて議論をする、といったパターンが続いてきた。
 インターネットに対して、いわばITUのような組織を作ろうということが起きている。しかし、日本からの関わりは足りない。先日も経団連に、日本インターネット協会として訪問し、情報通信委員会の電子商取引ワーキンググループに、このプロセスに参加してほしいとお願いしてきた。今はインターネット関連のサービスを提供する企業だけでなく、インターネットを使う側の企業活動にとっても、重要な問題が起きている。利用者としての日本企業にも積極的に参加し、発言してほしい。アジアの中からもそういう声が上がっている。実は韓国から、「韓国はお金が無いので、国際会議に出席する人材がなかなか出せない。日本が代わりにやってくれないか」と言われ、経団連を訪問した。

 直接出かけて説明したことで、確かに大切なことだと納得してもらえたとは思うが、後で聞いた事務局の人の話では、実際に有能な人材を出せる会社は非常に少ないということだった。経団連でも今、電子商取引のルール作りへの参加を進めているが、非常に苦労している。企業がそう簡単に人を出せるという甘い考えはもたない方がいいと言われた。
 繰り返しお願いをしなくてはいけないと思うが、対応する基盤がない。一応日本インターネット協会という組織はあるが、法人格を持っていないし、財政基盤も弱い。事務局長を置く提案も理事会で否決された。会員160余社の集まりだが、認知も低い。米国のように既存の業界団体や、Eコマースを推進している人達と一緒にやるようなことはできていない。米国の既存の情報産業協会などは、強力に機能し、問題があれば組織に流し、お金や人材を集める。日本政府も、通産省や郵政省の担当者は一応関心は持っている。しかし、昨年のシンガポールでの国際会議に誘ったのだが、予算や人材の関係ということで断られた。ECやアメリカ政府の代表は来たのに。彼らは次世代の産業活動や市民の利益を考えると関わりを持たざるを得ないはずだと考えている。日本政府の対応とは大きな違いがある。
 実際にマレーシアなどアジアに住んで活動していると、アジアの人々から日本に頑張ってもらいたい、リードしてもらいたいという願いがヒシヒシと伝わってくる。

ドメインネームの問題
 ドメインネームの具体的な問題とは、インターネットを使って商売しようという爆発が起きた95年くらいから起こり、たとえば三井、三菱、などの名前をインターネット上で使いたいという希望に対して、供給が需要に追いつかない状況が出現した。
 Network Solutions社(NSI)という、アメリカ政府の委託を受けて「.com」などの登録を行っている会社が、申請があれば自動的にOKを出していた。この会社が 96年から1件50ドル(今は35ドルに下げたが)の手数料を取りだした。これによって得られる莫大な利益をみて、全世界を相手に1社独占はけしからんと、競争参入を求める意見が出てきた。NSIはアメリカでは独禁法で訴えられている。ただしインターネットは9桁の数字の番地と名前が、1対1で対応していないと混乱が起きる。全世界をひとつのルールで管理しなくてはいけないために、単に競争をさせる訳にはいかない。一定のルールを世界中に浸透させなければいけない。その仕組みをどう作るのか。そこにトレードマーク問題も絡み、国際トレードマーク協会が出てきた。知的財産ということでWIPOからもいろいろな議論が出ている。
 そこで96年から97年にかけてインターネット協会(ISOC)など、当初からインターネットの運用を行ってきた人達と、ITU、WIPO、EU政府などが協力して、MoU(Memorandum of Understanding)を作り、相互了解による覚書であるとして新しい体制を作ろうとした。どこ国の法律に則ったMoUであるかは書いていないが、新しいシステムを作ろうということで、「.com」に加えて、「.biz」や芸術家用「.art」など、7つのドメインネームを増やした。
 ところがいざ実施の直前になって、アメリカ政府から「待った」がかかった。その理由としてはいくつかあるが、そのひとつにインターネットコミュニティの中の確執や批判があった。インターネット協会の初代事務局長であったトニー・ルツコフィスキーが追われる経緯の中で、自分が元いたところが勝手にルールを決めても、そうはいかないと、個人的な復讐心が働いたのだ。彼はアメリカ政府の情報政策の担当者とも親しく、最初のホワイトハウスのWebを作った人でもあり、そこで法律論を展開した。
 もともと南カリフォルニア大学の研究組織に属するIANA(Internet Assigned Numbers Authority)が、ドメインネームの一元的な世界的管理をずっとやってきた。長年ボランタリーな活動だったが、インターネットの爆発的な普及によってボランタリーでは限界があるということで、NSF(全米科学財団)を通じ、国防総省の資金が提供された。「包括研究協力契約」ということで、未来のインターネットの運用システムに対して研究するという名目で、実際には今日のシステムの運用が行われてきた。インターネットの管理システムを国からお金を貰って運用していいものなのか。トレードマークをめぐって商業上の紛争が起きた時に、勝手に名前を与えた大学機関にも責任があるのではないかと言われるようになった。アメリカ政府に対しても、契約という名目でお金を出しているのだから、当然責任の対象になるだろう。これらの問題は訴訟の対象になりえると、ルツコフィスキーがアメリカ政府に言ったようだ。しかも、今までの契約関係を勝手に変えようとしているが、アメリカ市民の税金を使って行っているシステムの変更を、アメリカの議会や政府の了解も得ずに、ヨーロッパ政府やITUなどの関係者を入れて一方的に進めているのはけしからん、訴訟や議会への訴えの対象になるという形で政治問題化し、「待った」をかけた。現に、議会の公聴会は開かれている。

問題の所在
 その裏にある問題の本質に絞れば、誰がインターネットに責任を持ち、運用管理をしているのかという問題になる。たとえばOCNはNTTが運用し、ソネットはソニーコミュニケーションズが運用しているが、その間の電子メールは両者に責任があるのか、間に入っている第三者に責任があるのかという問題だ。こうした責任が法的にははっきりとしていない。

 ドメインネームだけではなく、12桁のIPアドレスも、どういう根拠に基づいて使用ができるのか明確にされていない。全世界を統一管理しているのはIANAだったが、アジア太平洋地域は実験的プロジェクトだということで、APNIC(Asia Pacific Network Information Center)という組織が統括している。しかし、日本のNTTが必要としたアドレスの割当てが間に合わないということで、お客との間にトラブルが起こったことがある。このケースでも、誰を訴えればいいのか。NTTが訴えられた時に、どこへ持っていけばいいのか。そういうことに対しての法的な裏付けは現在全く存在していない。
 インターネットを研究所などごく一部の人達だけで使用していた時には問題は起きなかった。しかし一般市民や企業が広く利用している現在では、法的正当性が必要となり、もはや実験的なものではなく、グローバルにきちんとした体制を作ろうという動きになっている。その場合どのルールに基づくのか、世界標準にするにはどうするのか、デファクトで皆が納得する形でいいのか、どこかで法的手続きを入れるのか。また、そのルール作りそのものの意志決定プロセスはどうやるのか。これらは全くゼロからの議論が必要だった。

米国政府の戦略
 アメリカ政府が「待った」をかけたのは、単なる個人的な圧力ではなく、その背景としての政策や戦略があったからだ。「情報スーパーハイウェー」を新しい産業、新しい経済の原動力として考える戦略だ。1997年7月にゴア副大統領が、「A FRAMEWORK FOR GLOBAL ELECTRONIC COMMERCE」という政策を発表した。その中では、インターネット上の商取引には税金や規制はかけるべきではないということが強調されていた。しかし、よく読むと、ドメインネームの管理体制についても、きちんとした体制を作るべきであり、アメリカ政府はそのための調査を始めるとうたっていた。それに従ったプロジェクトチームがすぐにでき、関係者のヒアリングが行われ、その結果昨98年の1月に「グリーンペーパー」というドラフトが出された。それは一つの方向を示し、世界中から意見を求めるというものであった。アメリカ政府は集められた意見をすべてインターネット上に公開した。

 グリーンペーパーではアメリカが税金によってインターネットを作ったという考え方が強調されていた。これに対して、日本も含めたグローバルな人達が努力したからこそ、今日の形になったという強い反発が起きた。たしかにアメリカが果たした役割も大きいが、インターネットは彼らだけで作ったわけではない。それにもかかわらずアメリカの先住権を主張し、アメリカの法律のもとに、アメリカに組織を作り、他の人達も入れてあげるというのがグリーンペーパーの主張だった。

ホワイトペーパー
 しかし、各国からのコメントの大多数が、それは行き過ぎだという批判であり、アメリカの果たした役割は認めるが、新しいグローバルの枠組みを作るのに、アメリカ主導でいいのかという反発であった。グリーンペーパーには政府は一切関与をやめるという条項が入っていたが、アジアのインターネットのプロバイダには、形式上は民間企業とはいえ政府が株を100%持っているところも多く、政府の職員が研究所で運用していたり、中国のように全面的に政府の職員がコントロールしている現実がある。そういう人達を排除していいのか、技術的な機能というだけで、彼らを排除すると、新しいルールに彼らは入ってこなくなるが、それでもいいのかと主張した。 98年4月には米国政府は「デジタルエコノミー」という経済政策のレポートを出し「Eコマースは爆発する」という提言を行い、その後の98年6月に「ホワイトペーパー」として、「米国中心はやめてグローバルに新組織を作ろう」という新しい提案をアメリカ政府は出した。

 これに従い、現在のICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)に至るプロセスが始まった。それは、グリーンペーパーには国際的な批判があったため、今度は民間の非営利でグローバルな組織を作り、法的根拠を与えようというものだ。現実にはカリフォルニア法の下に法人を作ったのだが、手続きはオープンで、アカウンタブルで、グローバルで公正な代表で構成し、しかも実務的機関としてインターネットの運用の安定を望むというものだった。しかし、関係者の議論の中には、世界連邦政府のようなものを作れという主張までが入り、技術的な部分の議論なのか、次世代の社会がどうあるべきかという議論なのか、全体の仕組みをどうするのか等抽象論までが入って混乱した。しかし、まずそういう理念上の議論をしないことには、具体的な話は見えてこないのだ。

 ホワイトペーパーでは、インターネットのガバナンス全体を議論しても仕方がないとして、ドメインネーム・IPアドレスなど技術分野の管理体制に対象が絞られた。ただ、これからのEコマースの認証を国際的にどうするのか、トランスボーダーのセキュリティ問題についてどうするのかといった、より広いガバナンス問題について先例になる可能性は十分あり得るので、いくら限定的とはいえ、必ずしもそうなるとは言えない要素もある。しかし、それでは話はまとまらないので、とりあえず技術面に絞る形で、インターナショナル・フォーラム・オン・ホワイトペーパー(IFWP)という臨時組織が形成され、新しい管理体制を作り出す努力が民間の業界団体の連合で始められた。

 このプロセスはアメリカ政府もそう言うのだから、民間で作ろうということで始まったもので、アメリカ、ヨーロッパ、シンガポール、ブエノスアイレスで次々に会議を開いた。民間できちんとできなければ、アメリカ政府は自分の案を98年の7月から8月にかけての2ヶ月の間に押すという脅かしがあり、民間の国際的なコンセンサスづくりにプレッシャーをかけた。






ICANNの成立
 しかし、ドメインネームを最初から管理してきた南カリフォルニア大学のジョン・ポステルが9月に突然亡くなり、かなりの混乱が生じた。ICANNの最初の役員はジョン・ポステルが選んだのだが、その経緯は不明だ。暫定役員は1年後に全員が辞める。つまり自分のビジネス上の利害を直接持ち込まないという形で組織作りが行われた。
 しかし、今でも議論されていることだが、アメリカ政府はICANNを開かれた会員組織にするようにという条件をつけている。希望者であれば、個人でも企業でもICANNに参加できるということがアメリカ政府のつけた条件だ。これに対して、インターネット・コミュニティの人々は特定勢力に支配される恐れがあるので会員組織は危険だというのが、争いのポイントである。


 特定勢力に不当なコントロールを受けずに、開かれた組織にするためにはどうすればいいのか。そのルール作りを担当する委員会MAC(メンバーシップ・アドバイザリー・コミティ)のメンバーが98年12月に公募され、私もその一員となった。
  ICANNの役員会は19人で構成される。しかし、特定地域の人間が過半数を超えないという取り決めに対して、技術者がたくさん必要なプロトコルはアメリカからの人数を増やすべきだ等、ややこしい話になっている。が、こういう議論を通さないと、インターネットを使用したり、商売をする上での管理規則の運用母体ができないのも現実だ。



       


本当にグローバル?
 グローバルにするというのは単なる理念上のことではなく、実際の行動の問題だ。どうすれば皆が納得するのか。会員制にするならば会費はいくら取るのか。今は会費を考えていない。インターネットの関係者でも、途上国の人間は、月収100ドルの人も珍しくなく、年間50ドルの会費でもかなりの負担になる。アメリカ人は、パソコンを買い、インターネットをやれるのだから金持ちのはずだと考える。私はアジアの現実を見ているので、それではグローバルに見て公正ではないとの議論になる。MACの中では納得してもらえたが、オンラインの公開討論になると「これはとんでもない」という議論になる。きちんとした説明をしないと反論を認めたことになってしまう。技術的なテーマなら、支持者を得るにもそれなりの基準があるが、社会的なテーマについて、先々まで公平でグローバルな仕組を作るのはどうしたらいいのか、柔軟な仕組みにして、技術の変化に応じてどんどん変えていけるものにしようとも言っているが、現実にそれをつくるのはきわめて大変だというのが実感だ。




 |
ガバナンス | | インターネットY2K | | 討論 |

「インターネットのY2K問題」

 Y2Kについても同様なことがいえる。昨年の12月に、アメリカでインターネットY2Kキャンペーンを始めるので協力してほしいというEメールがAPIA(アジア太平洋インターネット協会)に来た。アメリカの地域プロバイダ団体と、全米の小さな団体と、FCC(連邦通信委員会)のキャノンという人が始めたものだ。インターネット関係者、業界のY2K問題の取り組みは世界的に遅れていた。電話、航空、金融などの主要インフラ業界に比べてもはるかに遅れていた。技術的に問題がないと言っている人が多いが、掘り下げてみると技術的問題はかなりある。情報の開示と共有については、法的責任という難しい問題があるが、それをしないとインターネットに関しては、特に安定した運用を責任を持って果たすことは難しい。誰が誰に責任を持つのか。国内的には問題がなくとも、海外にメールが通じなければ意味がない。開かれた相互接続によって成り立っているところがポイントだ。

これまでの経緯
 インターネットに関してはアメリカ政府は一切の規制をしないというのが基本方針なので、FCCもY2Kについて、インターネットは規制の対象にはしない。法的権限は持っていない。従ってプロバイダに対しての強制や調査はしない。FCCは口出しをしないでほしいというのが民間の業界の反応でもある。日本でもY2Kへの対応は遅れており、通産省や郵政省の管轄の問題や、民間業者の意識の低さが現れていた。





 今年2月、ワシントンでGLOCOMも共催した非公式会議が招集された。日米政府、プロバイダなどが集った席上で、テキサスから、「Y2Kは大丈夫」と言われたサーバをテストしたところ、問題が生じたのでハードも入れかえたとの報告があった。ドメインネームのおおもととして、世界中に13台のルートサーバがある。分散システムなので、5、6台が不都合でも、世界のインターネットは大丈夫だと言われている。ただ、この13台がY2K対応ができているのかどうかは、出席していた人は誰も知らなかった。そこで最終的にアクションプランの第一として「このDNSルートサーバ」をテストし、テスト結果を報告することになった。ただ、今日までテストがされたのか、その結果はどうであったかの発表はされていない。技術的な問題よりも、大丈夫ならばそれを発表すべきだという社会的責任の問題だ。
 各国にはそれぞれ、その下に国別のドメインネームを扱うサーバが全世界で160ほどあり、同じことをしなければ大丈夫ということにはならない。

「技術者の常識」?
 技術者はよくUNIXは大丈夫だと言うが、何が大丈夫なのかは書かれていない。アプリケーションなどは、プログラムを作った人の問題なので、OSメーカーは関知できないという。インターネットのメールやHTTPなどのプロトコルについては、2年半をかけ、1行ずつコードを読んだので問題はないと、IETFのワーキンググループの責任者がワシントンの会議で発表した。ただし彼は、これはあくまでも設計仕様上のチェックであり、メーカーによる実装、たとえばシスコがソフトのレベルできちんと実装したかはまったく別の問題で、これについては一切調べてはいないし、責任も取れない。同様にISPが運用上どういう対応をしているのかもIETFの責任外である。しかし時間はないと心配していた。
 シスコのルーターはバージョン11以降はY2Kに対応している。しかし10については非対応でかつ対応やテストの予定もないという。どんな問題が起きるのかは明らかにされず、ユーザーが自分でリスクをとるしかないという。シスコの日本の担当者は、本社からはノーコメントだと言われているが、多少の問題は起きるはずだと言っている。我々はバージョン10についての情報開示を求めている。世界のインターネットの9割は、シスコのルーターで動いている。法的な問題もあるし、彼らの利益も考えなくてはいけないので難しいが、ここにはかなりの問題がある。バージョン11にするにはそれなりのお金がいる。アジアの途上国からは、それだけのお金がないのでなんとかして欲しいと言われている。

チェックポイント -- 情報開示を
 チェックすべきポイントは多数ある。インターネットは自律分散協調システムであり、プロバイダだけではなく、エクスチェンジポイントは大丈夫かなどすべて点検、対応しなくてはいけないが、作業は相当遅れている。
 テキサスやフロリダのISP協会に聞くと、小さなISPは中古のルーターやサーバを買って使用しているので、メンテナンス契約もしていない、テストをする余裕もないという。大手のISPでも現場の人から話を聞くと、マネージャーを説得してほしいと言う。「やれ」と言われても時間がない。インターネット業界は儲かって忙しいか、競争に負けて苦しいかで、どちらにしても余裕はない。電話会社の方がよほどきちんと対策を進めている。

 ユーザーからの問い合わせにはどうするのか。ニフティでは、自分達のシステムは何とかなるが、200万台のユーザーのパソコンのかなりの部分がY2K問題に引っ掛かると考えている。彼らからの問い合わせにどこまで対応できるかは分からないが、臨時の態勢は用意するという。自分のシステムが動けばいいということではない。相互接続をしているので、他のシステムが動かなければ連鎖反応が生じる。

 そういう意味で、情報開示を進めなくてはいけない。プロバイダ同士が持ちより、チェックリストを作ろうということが始まろうとしている。地方、国、アジアなどいろいろなレベルで相互接続テストをやろうという話が出ているが、時間がない、お金は誰が出すのかとの議論になる。幸いに、自社開発のプログラムよりメーカーの作ったルーターやサーバのソフトをそのまま使っている所が多いので、ソフトウエアを入れ替えたり、修理をすれば何とかなるとは思う。しかし、業界も各国政府の腰も引けている。
 企業ユーザーがつながっている先を考えると、プロバイダ側だけではなく、いろいろな問題が起きると考えられる。

日本の行動・支援
 アジアの支援ということも大切だ。日本企業はかなりアジアに進出している。アジアでのインターネット利用者もかなりの数になる。アメリカに先駆けて支援すれば、それだけ日本がアジアにおける発言権を主張できるはずだ。









 また、圧倒的に人が少ないということを付け加えたい。育てる仕組みが十分ではない。今は土俵作りの段階だが、後で効いてくると思う。技術に詳しくなければいけないし、経済や国際的に詳しくなければいけない。どうすればいいのか。











公文俊平GLOCOM所長 コメント

 今日の話は、日本の国益に関わる問題であり、相当に出遅れているのは残念に思う。1998年、情報インフラの世界では、インターネットが完全に主流になったということを多くの人が認めたと思う。しかし、主流の中身を考えると、IBMのプロトコルがどこでも使われるようになり、コンピュータのプラットホームで言えば、OSよりもWebが基本的なプラットホームになるということが事実上決まったということである。ビル・ゲイツの本によれば、その上にWebライフスタイルが出てくる。そこをマイクロソフトは押さえたいのだろう。一歩中に入れば、インターネットの世界のガバナンスをどうするのか、2000年になってもシステムがきちんと動くように維持していくマネージメントはどうするのか、それが今日の会津の指摘だと思う。
 ガバナンスの点では、我々が知っているのは、世界的な標準やルールを作るのは、国際的機関、政府による法律的権威を基にした、デジューレの標準システムだ。マーケットでは、人々が何かを標準として受け取り、行動するデファクトの世界も知っている。インターネットの世界で生まれつつあるのはそのいずれの仕組みでもない。新しい言葉、「デ・コンセンスー」とでもいうべき仕組みが必要だろうが、自生的には出てはこない。新しい仕組みを作るには、既存の政府が関与し、最初の法的正当性(レジティマシー)を与えなくてはいけない。何らかの仕組みを意識的に作り、育てていく必要がある。形成過程に我々は参加し、貢献しなくてはならない。
 同じことがY2Kにも言える。本当に動く仕組みが作れるのか。これまではインターネットでは強いと言われていた自律分散型の協調システムが、複雑系の故障に直面すると、なすことなく混乱してしまうのか。
 アメリカの科学アカデミーの下に全米研究評議会がある。ここではY2K問題の長期的な研究計画を作った。これまで直面したことのない障害に対し、どのような反応を示すのか。いかに失敗し、いかに成功したかの記録をきちんと取り、観察し、未来の世界への教訓として残そうというプロジェクトを呼びかけている。現実的には200日しかないが、先のことまで考えるというのは必要なことだ。実務的な対応と同時に、社会に関心のある人がきちんと調べ、分析し、教訓を引き出すということも、国際的にやっていく必要がある。我々も参加していきたいと思う。



 |
ガバナンス | | インターネットY2K | | 討論 |

<討 論>

【H氏】
 インターネットの原理、原則というものがある。それは自己責任の原則、市場原理の原則とイコールだ。そういう体系の中で生きてきたが、今回のY2K問題で、市場の失敗に直面した。原則を貫くならば、自己責任の原則なので、痛みを受けるのは仕方ないと思う。が、この問題を解決するには、インターネットの原理、原則を越えた、国家の方にディペンドする新しいネットワーク体系が必要なのか。21世紀の強固なネットワーク体制は、国家に管理してもらわざるを得ないのか。
 我々が考えていた原理、原則が幻想であったのか。今日の報告を聞き、考え直さなくてはいけないという感想を持った。

【公文】
 そこまでは答えが出てしまってはいない。市場や政府でもない、第三の原理というものがあるのか、ないのか。存続力を持たない形でつぶれてしまうか、完全につぶれはしないが、大きく時間的にずれ込む可能性はある。確かにうまくいかなければ、政府が出てくるというのもひとつの考え方だ。デファクトに大きな企業の手で、グローバルなインターネットのシステムを作り、責任を持って管理する形。NTTが考えている方向だと思う。ただ、それはいいシステムだが、インターネットではなくなる。大組織の管理下に置こうという考え方が、成功するのか、失敗するのかは興味深い問題として残る。第三の可能性としては、どこかひとつがコントロールを持つのではなく、政府、組織、市民のそれぞれが協力関係を作っていく。実際にどれかひとつがやろうと思ってもだめだ。一方では研究をしなくてはいけない。他方ではコミットしなくてはいけないと思う。

【会津】
 FCCの人間が、「民間でやらなくてはだめだ、うまくいかなければ政府が規制をする」と、脅かすのが一番効くと言っている。逆も考えられる。アメリカ政府が、ガバナンスが民間でできなければ政府がやると言っているが、本当に政府でできるのか。政府がインターネットを動かしている人達に命令すれば、Y2K問題が解決するという保証はない。どこかが単独で責任を持てるという問題ではない。そういう意味で新しいガバナンスの仕組を作ろうということになる。痛みを経験することは意味があると思う。

【D氏】
 ICANNができる時に、IETF(The Internet Engineering Task Force)の人達がものすごく反発していた。金の亡者が来て利権を争うという批判があった。今の説明とは別の角度から説明をすると、これは文化の戦いだ。カウンターカルチャーのコピーレフトの文化と、資本主義社会のコピーライトの文化の戦いが起きている。インターネットはコピーレフトの同好会だった所に、コピーライトの人間が入り込み、いじり始めた。商標権の問題は、4、5年前にはかなりの訴訟になった。IETFのレベルでは解決したと彼らは思った。リアルワールドの商標権はサイバーワールドでも適応するという判例がいくつか出た。既存の法律の範囲以内で、商標権はサイバーワールドでも認めるとなった。その後は大きな問題は出ていないと思う。少なくともコピーレフトの人間は、我々はきちんとやっているのに、利権を求めて金の亡者がたくさんやってくるのかと反発がある。だから、コピーレフトの人達をICANNにも送り込もうという動きになったのだと思う。
 デジューレ、デファクトに続いて、新しい言葉で「デ・コンセンスー」とあったが、これはいい言葉だと思う。「国際スタンダードの世界」ではちょっと違う感じがあった。私見だが、ITU、IECというのはデジューレだ。これが間尺に合わなくなり、技術の進歩についていけなくなった。そこに競争原理が出てきた。各企業が自分のところの技術を国際標準の中に入れようと、必死になって働く。デビックにしても、今の競争社会のルールがそのまま入っている。コンフリクトを起こした時にどうするのか。こういうアイテムについてはどうするのかと、細かい規則が決まった。我々が住んでいる法律による競争社会と同じだ。
 これは非常に効率がよかった。人々が、それぞれの企業の利益のために競争するのは大変に効率がいいということが証明された。だが、インターネットの技術の進歩というのは、それよりも速かった。
 IETFがどうやっているかと言えば、道標がない。ルールの一切ない社会だ。我々はデビックとIETFとジョイントワークをしようとしたが、お互いのプロセスを比較した時にギブアップした。資本主義と社会主義が一緒にECを作りましょうというようなものだ。基本のフィロソフィーもルールもプロセスも違うので、ジョイントワークが全くできないということを発見した。IETFでは偉い人が決めるのではなく、皆が平等だ。ワーキング行動もコンセプトだけを提案してもだめだ。実際に動いているものを持っていかなくてはいけない。議長がいて、議論をさせ、適当なころに決めるルールだ。資本主義社会の物事の決め方とは全く違う。
 ひとつよかったのは、誰も何の利益の代表もしていない。インターネットの世界では、新しい技術を提供しても、名誉にはなるがお金にはならないというところで仕事をしていた。そこに資本主義のルールが入り、お金儲けをしようという人が出てきたために、おかしくなってきたのが現状だ。
 これをどう捉えるのかというのは難しい問題だ。人間社会をどう考えたらいいのかという、一番の根本的なところでコンフリクトが起きていると思う。人間社会というのは、何千年の歴史の中で、利益や煩悩の追求を推進力にした社会や組織だけが生き残っている。それを否定したものは滅びている。共産主義もヒッピーのコミュニティも武者小路実篤の新しき村もそうであったが、煩悩を否定すると煩悩からおかしくなり滅びていく。今の「デ・コンセンスー」のような非常に変わったやり方は、4、5年前まではうまくいっていた。個人的にはキープしてほしかった。ICANNのようなものが出てきて、競争社会の原理、原則をいきなり押し付けるというのは残念で仕方ないというのが個人的な見解だ。

【H氏】
 法律、特に日本の制定法を主とした法律がこういうことには有効かとずっと考えた。どうも有効ではない気がした。コンセプトや理念があり、すっぱりと裁けるケースには制定法は有効だが、世の中はもっとドロドロしている。ケースが積み上がり、判断を間違えたり、修正したり、別の人が訴訟を起こしたりしながら修練されていくプロセスの方が、よほど向いているのではないか。その辺で迷っているので動きがとれない。
 昨年8月の研究協力委員会で著作権について発表させてもらったが、その後どうなったかということが、自分の迷いを具体的に表している。著作権について言えば、名前を貴んでもらうという名誉に関する問題と、お金の面との両方がある。名誉は重んじるが、お金の面はボランティア的でもいいという要素を入れたらどうか、という案しか思いつかなかった。これは人生経験を踏まえた人には、うまい落としどころと評価はあるのかもしれないが、若者の著作権学者からは堕落したと言われた。そこが悩みだ。

【公文】
 新しい問題についての、日本からの参加が少ない。ICANNならばビジネスの世界なので、日本からは当然、いくつも企業や団体が入ろうとして争ってもおかしくはない。現にICANNに加盟している組織はひとつだけである。NTTは当然入るものだと思っていたが名前がない。

【D氏】
 見解の違いだ。IETFには日本人はものすごく参加しているし、英語で大ゲンカをしている。そういう人達が各社のインターネットを担当している。彼らにすればICANNに人を出すのは裏切り者だ。

【公文】
 割合からすれば、もっと多くてもいいのではないか。

【D氏】
 十分に参加していると思う。

【会津】
 日本の場合には、外側からICANNを批判する議論にさえも参加していない。IETFは広い意味ではエンジニアリングの課題がはっきりとしているので、参加しやすいのではないか。今までの蓄積もあり、企業の技術的課題とマーケティング的課題をつなげることは難しくはない。インターネットのドメインネームのガバナンスについて、NTTが人を送りこめるのか。

【D氏】
 IETFに出ている人達は企業の利益とは全くリンクはしていない。

【会津】
 直接関係はなくとも、企業からはバックアップはしやすい。出張だと言えば通るだろう。
【D氏】
 必ずしもそうではなく、ボランティアだ。最近は、いろいろな情報を持ってくることは悪くはないという傾向だ。その前は必死の面持ちで出掛けていた。

【会津】
 最近はかなり通りがよくなった。IETFではソニーや松下はかなり主張をしている。だが、松下にICANNに参加してもらうには、担当者をかなり説得することが必要だ。

【公文】
 インターネット関連のビジネスが極めて大きくなるという自明の中で、企業はIETF関係の人達だけにやらせず、ビジネスとしてインターネットの世界にどうやって入っていくかを考えなくてはいけない。問題提起はしないのか。

【I氏】
 多分日本の企業は、危機感を持って見つめてはいない気がする。そこが問題だと思うし、我々の責任でもある。こういう啓蒙を大いにやってもらいたい。
 会津さんの活動は大変だと思う。その活動のサポートはどうすればいいのか。どういう人を、どう増やせば盛んになるのか。

【会津】
 実際に役に立つ人間をどうやって探すのか。日本企業がこれだけ海外に進出し、その子供達が外国の有名な大学にも入っている。素材的にはたくさんいると思っている。ただ、即お金が入るビジネスにとられている。明日、あさってのことを考えれば、企業のビジネスと社会的意義の両方が同時に成り立つということがわかる若手はいるだろう。問題は管理体制にパスができていないからなのか。
 英語をこなせる人材は多いが、外国の教育を全く受けていない人材でやるのは大変だ。社会と技術の両方の分析を含めてわかる先生がいるのかということでも唸っている。教育に求めるべきなのか、文部省の教育ではなく、実学をガンガンやるべきなのかと悩んでいる。

【D氏】
 アメリカのコピーレフトと日本のコピーレフトは違うと思う。アメリカのコピーレフトには非常に宗教的なストールマンもいるが、コピーレフトから、ある日突然コピーライトになり金儲けしても平気だ。日本のコピーレフトは国民性なのか、とても宗教的だ。うちの研究所でもいい研究をしていて、パブリックドメインに出すつもりで、ペーパーを出す前にパテントをとれと言ったら、会社を辞めた人がいる。パテントをとるのはけしからんと。企業のお金でやっているにも関わらずだ。それくらい宗教的な人間がいる。コピーレフトは日本のベーシックなカルチャーにはまり、企業にそぐわない面もある。IETFに出ている5割くらいはそういう人間ではないか。

【公文】
 IETFについては事実としてはそうだと思う。しかし、日本の文化として多数意見はその逆だ。日本人は原理、原則を持たない。転向も平気である。ところが欧米の個人主義は、宗教的な原理にきちんと根差しているので、突然に転換することは人間のインテグリティーを疑われる。絶対に信用されないと、日本では言われている。ということは、この説明そのものにおかしいところがある。

【D氏】
 コピーレフトからコピーライトに転向した人はものすごくいる。皆平気だし誰も批判もしない。

【公文】
 我々が教わってきた常識では、そういうことはあってはならない。

【会津】
 アジアやアフリカやラテンアメリカの人々もICANNの議論に入っている。欧米型スタンダードをどのくらい入れるかという時に、温度差を感じる。コンセンサスそのものが見えない。政府とか市場主義についても、言葉は同じでも解釈が違う。政府の人間は参加しないというときに、政府が持ち株の会社でも、民間会社の形ならばOKなのか、だめなのか解釈が分かれる。共通のグラウンドがない。アジアの中でも争いがあり、アジアをまとめて代表を出すとは簡単には言えない。地域的、文化的にパラレルに違う部分と、時代的に歴史が動いている部分がクロスしている。皆の知恵を持ち寄って次のシステムを考えないといけない。ここまでの過去の解析はうまくできても、次の新しいシステムが作れない。そこにぶつかっている感じがしている。

【H氏】
 今日の説明のガバナンスとY2Kの話で、ガバナンスやドメインネームに代表される部分とY2Kでは、法的には違う気がする。前者の方は法律や制度を作れば解決するのではないか。後者は有体物に対する製造物責任を、ソフトというインターチブルなものにも適用するかどうかだ。より難しい問題が入っている気がする。一緒のディベーションかという疑念を持つ。

【会津】
 法的な意味では違うと思う。ただ、前者の方で法律を作れば解決するというが、国際法なのか相互認証でいくのか。既存の法的デジューレの中で解決するかどうかは疑問だ。アメリカでは解決できても、アジアではできない。その二つがインターネットでリアルタイムにつながっており、取引や決済がなされている。そこに難しい問題がある。
 共通項として何を考えているかだが、グローバルにつながっているシステムの安定的な運用管理をどうするかということがテーマにある。それに対するレベルの違うチャレンジがいくつかある。Y2Kのチャレンジは、技術的な特定のチャレンジであるが、解決方法を考える時に、グローバルにつながっている自立、分散、協調というものをどうやれば特定の時間と資源の中で解決できるかだ。これはY2Kに限らず、サイバークライムの問題やコンテント・レギュレーションにも関連する。必ずしもドメインネームと近いかどうかは分からないが、これから続々と出てくる問題については、そのたびにインターネット関係者が走り回ることが多いかもしれないと感じている。

【D氏】
 両方の共通点として、インターネットをやっている人達の、中からの見方と外からの見方が相当に食い違っているということがある。インターネットを実際に開発している人達は何とも思っていないと思う。何故かと言えば、インターネットというものはもともと問題のあるもので、どんどん使っていけばいい。いちばん良い例が、ドメインネームサーバは誰もが反対し、誰も動くとは思わなかった。とにかく動かしてみれば、当初はいろいろな問題が出たが、解決策を見いだしていくというのはカルチャーだ。Y2Kの問題が起きてもいいではないかというのが、インターネット担当者の偽らざるところだと思う。外で騒ぐほどには、彼らは問題意識を持っていない。

【公文】
 先日大学はどうかと聞かれた。大学は古いルーターで、サーバもいろいろなものを使っているのでだめであろう。ただ、大したことはないし、研究がしばらくストップするだけのことだ。コミュニティならいいだろう。国立大学の研究がストップしても、給料が止まるわけではないのでかまわない。でも、インターネット全体はもっと大きな社会的役割を果たしているのだから、そういう感じでは困る。
 コンピュータはまともに動くものではない。だましだましやっているのだからという議論もある。しかし、限度を超えた故障が同時多発した時にはそれでは済まない。

【会津】
 インターネットをビジネスとしてやっている人は、かつてWIDEプロジェクトにいた人といえどもそうは言い切れなくなっている。どうしたらいいのか分からずに、逃げ出す人もかなりいる。かなり極端に分かれている。問題ないという人と、問題があっても関係ないという人と、まずいという人がいる。そのどれでもなく、何とかしようというレベルにどうやって持っていこうかという議論をさんざんしてきた。
 アメリカには膨大な商業上の利益がネット上にあるが、ことインターネットに関してY2K対策をどこまでやっているかといえば、非常に甘いと言わざるをえない。

【D氏】
 Y2K問題というのはYYMMDDTが引き算をする時に発生する。引き算が当然行われるシステムもあるが、引き算を行うものがなかなか見つからないシステムもある。インターネットというのは後者だと思う。どこかで問題が起きるのかもしれないが、どこで引き算をするのか。普通のインターネットシステムでは、引き算はしない。リスクマネージメントの一つのケーススタディであるのはいいが、そんなに大騒ぎすることはないと思う。

【会津】
 アカウントに入る時に、ユーザーはパスワードやIDを打つと、認証して時間課金をしているが、それが動かないシステムが結構ある。それはインターネットの問題ではないと、インターネット側の人は言うが、サービスの面では大問題だ。ルーターの問題ではない。インターネット全体を支えている入り口の問題としては重要だ。

【D氏】
 今の問題は、NTTの問題だ。

【会津】
 そうだ。ただ、誰が全体を見ているか。誰もいない。NTTはインターネット以外についてはかなりまじめに取り組んでいる。インターネットの対応する部分、サーバの部分等で、NTT以外の事業者がどのくらいやっているのかは非常に心配だ。NTTとニフティやその他の会社でタスクフォースを作ってもらい、どういうチェックをしたらいいか、きちんとしたものを出そうということになった。しかしベンダーやメーカーからは法律問題があってできない。できるところを探そうということだが、業界団体が当然やることではないのか。電力業界や航空業界などはやっている。
 アメリカの業界が一番恐れたのはプレスだ。インターネットの対応ができていないと書かれることはダメージが大きい。後からダメージがくるよりも、今のうちにリスクマネージメントをしようという提案を出した。

【D氏】
 当社でも、この対策に100億円以上使っている。お金が使えないところが残っている可能性はある。今のようなインフラの話とインターネットの話を混同したらまずい。騒ぎ過ぎというのも問題があると思う。
 インターネットの問題がゼロとは言えないだろうが、当社は罪がない方だ。自分で部品を調達し、製品を作って売るというだけのオペレーションだ。わが社が止まろうと世の中には迷惑をかけない。それに比べれば電話や電力などのインフラ系は大変だ。そういうところはきちんとしていると考えている。今は景気が悪いが、お金が使えない会社はまずいと思う。Y2K対策にはものすごくお金がかかる。お金が使えなかった会社は問題が出るであろう。アジテーションというのが非常にまずい。

【会津】
 たとえばアメリカのデルコンピュータは、オンライン販売への依存度が高いから彼らなりの対応をしていると思うが、その情報が全く出てこない。テキサスやフロリダなど力の弱い地方やマイナーなところがうまくできない。インターネットというものは、全世界的に見た時に、力のある人達だけで動くネットワークではない。電話会社はどこもお金があるので対策を講じているが、インターネットはボランティア精神はあるが、お金はないという人達が多い。そこをどうするかが問われている。


【以上】



 | ガバナンス | | インターネットY2K | | 討論 |


 99年アウトプットへもどる

 ANRホームページへもどる


Copyright(C) 1999 アジアネットワーク研究所