[aisg-news 配信ニュース記録]  1998年8月



会津 泉

(アジアネットワーク研究所/クアラルンプール)




Date: 08.09 10:32 AM
To: aisg-news@anr.org
From: Izumi Aizu
Subject:[aisg-news 90] 最近のマレーシア情勢

この一カ月半ほど、出張の連続で、マレーシアでの不在期間が多かった ので、あまり確かなことは言えないのですが、ここ数日で留守中の新聞を 読み返したりしたなかで、経済状況などの実感をすこし報告します。

先日久しぶりに市内の金融街に行ったのですが、車の交通量がめっ きり減り、銀行もあきらかに閑散としていました。通りに面した商店も、昼 間からシャッターを閉じているところが、4、5軒に1軒と思えるくらい多く、 不況で店じまいをしたところが多いのだと思いました。
ショッピングセンターも活気がありません。車の売れ行きも、とくに外国 車は上半期で85%減と、どうしようもない状況です。大型プロジェクトの停 滞、企業のリストラなどの話題ばかりです。

新聞は、連日経済政策について報道していますが、明るい話題はまっ たくありません。日経新聞にも出ていましたが、政府は、景気刺激策を打 ち出すために、トラの子の財源である雇用基金(日本の厚生年金基金に 相当)に手をつけ、また国営石油会社に国債を引き受けさせるという、 背水の陣で臨んでいるといえます。

しかし、経済政策をめぐって、首相とその側近でもあるダイム経済担当 特別任務相と、アンワール副首相・兼蔵相との間には、常に方針の相違 があると噂され、最近もアンワール副首相は、雇用基金のお金を銀行救 済資金に転用することに強く反対していると報道されています。

マハティール・ダイム路線で、これまでの緊縮財政から一転して、景気刺 激策に転換を図り、公共事業も、思い切って復活させる方策です。こうし た策が奏効すればいいのですが、日本と同様、工事にバラまいても、砂地 に吸い込まれてしまう心配が強いのです。

7月末に、アメリカのムーディーズ、およびS&Pが相次いでマレーシアの 債権などの格下げを発表したことから、株価は棒下がり、いまは過去一年 間の下落率ではアジアでも最大で対前年比価格が35%と、インドネシア の60%はもちろん、ホンコンの43%、バンコクの48%より低いのです。 一方、物価は上半期で公式統計でも5%上昇したと発表され、インフレ の足音もしています。最近、銀行の貸出利息が引き下げられ、それに伴っ ての通貨安も懸念されています。

マハティール首相は強気の発言を繰り返していますが、情報社会で経済・ 金融がボーダーレスになると、途上国などは、国際資本の自由な移動に 晒されて、きわめて弱い立場に置かれていると指摘しています。たしかに 一連の投機の動きは、少々の経済力の国家ではとても対抗できないの でしょうか。痛みを伴う構造転換が必要とはだれもがわかっていること ですが、どうやってそれが実現できるのか、手探りしかないようです。

この低迷は当分続き、不動産価格などはさらに下げ続け、年末頃に底を うつといった見方も強いようです。

8月末の建国記念日、9月には英連邦大会、さらに11月にはAPECサミット とイベントが続きます。そのなかで、本当に経済が立ち直れるかどうかは、 非常に厳しいものがあると思います。もしかすると、突然政権の交代があっ てもおかしくない、与党も総選挙体制を指示したといわれています。たしか に、昨年の通貨危機以降、アジアの主な国の指導者はほとんどが交代して いますね。タイ、韓国、中国、インドネシア、フィリピン、そして日本と。残って いるのは、シンガポールとマレーシアくらいでしょうか。

しかし、マハティール首相の腰の強さには定評があり、危機に直面するほ ど政敵を叩き、再浮上するというのがこれまでの歴史でした。巷では、トップ 交代を求める声が、秘やかに語られるのですが、だれも正面きってそれを発 言する人はいません。

最近のある調査でも、アジア各国のなかでマレーシアがもっとも将来に楽 観的な人が多かったという結果が出たそうです。「マレーシア・ボレ(マレー しあだからできる!」という掛け声が聞こえてきそうです。この感覚は、ヨソモ ノにはなかなか理解が難しいのですが。

会津 泉


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Date: 08.17 4:18 PM
To: aisg-news@anr.org
From: Izumi Aizu
Subject:[aisg-news 91] インターネットでのデマで3名逮捕

サイバースペース経由で、インドネシア人暴動発生のデマ流通。
人々はパニックに。


 「同じメッセージを10通コピーして10人に配らないと、あなたに不幸がおとず れます。」
 一昔前に不幸の手紙というのが流行った。郵便で来た手紙なら、もしあなた がバカバカしいと思ってゴミ箱へ捨ててしまえばもうそれっきり。闇の中へほう り込まれることになってしまうのだ。時代は変わった。

 それは8月7日、金曜日の朝始まった。クアラルンプールに隣接するプタリン・ ジャヤ市(通称PJ)のある貿易会社の秘書が、「インドネシア人が自国へ帰り たくないといって8月15日に暴動を起こすことを計画している。彼らはすでに、 大量の斧を金物屋で仕入れており、インドネシアで起きた様な暴動を起こす」 という匿名のメールを受け取った。それが他の社員へ広まり、家族やその親 戚へとメール、電話、携帯電話、ファックスを通して、噂はたちまち巨大化して 広まってしまった。8月15日とは、外国人労働者の労働許可の更新期限であ り、この日以降は不法残留となるという締切日であった。
この噂に半ばパニック状態になった人々も多く、とくにKL市内のチョウキット 市場の周辺は混乱が大きかったようで、食品のかえおきを買いあさりに出る 人が殺到、ショッピングセンターも混乱したようだ。多くの人々が帰宅を急いだ ことから、市内全域での交通渋滞も発生したという。

もとをたどって行くと、デマメールはチャットグループの討論から始まり、それ がチェーンメールで数人に配られたらしい。しかし結局、市内の金物屋に問い 合わせても、斧は売られていなかったし、結局は何事も起こらなかった。警察 も政府首脳も、悪質なデマだと明言した。

この事件は、連日テレビのニュースや新聞の一面トップで大々的に報道され た。とくに、噂がインターネットから流れたことが重視されたのが特徴だ。

 警察当局は早速特別チームを結成し、捜査を進めた。とくに、インターネットに ついては、容疑者が利用してたとみられるインターネットのプロバイダーである ミモスの職員が協力して進められた。その結果、事件発生から5日後の8月11 日、インターネットサービス業のアシスタントの37才の男性と、建設会社勤務の 25才の女性の2人を、治安保護法37条(警察は取調のために容疑者を60日間 拘留できる)に基づき、逮捕し、翌12日午後には3人目の容疑者として30代の 銀行員を逮捕した。

その結果、3人の容疑者は十分な取調後に内務省へ書類送検され、裁判の 判決を受けて最後的な刑罰が執行されることとなった。政府は今回のように国 内中にまたたく間に広がった悪質なデマに対し、民族の調和と国家の安全性を 問われるとして、重大視している。

ミモスが運営するジャリンと、テレコムが運営するTMネットの大手プロバイダー 2社は、ユーザーに説明のメールを配布した。ミモスが警察の捜査に協力したこ とについて、本来私信としてプライバシーが保証されるはずのメールの内容をプ ロバイダーが自由に閲覧できるのか、警察は勝手に調べることができるのかと いう国民の懸念に対し、加入者のプライバシーを尊重することを強調している。 新聞にも、同様の記事が掲載されている。

それらによると、今回のような調査は特別な状況下に限って実行されるもの とされている。つまり、警察からの法律に基づく正式の要請があり、犯罪の恐れ が明白であるとき、あるいは脅迫や悪用メールを受信した者からの告訴があっ た場合にのみ実行可能であるという。
また、技術的に、加入者のメールボックスが満杯になってしまったり、誤った アドレスのため、送信者へのメールの返信が不可能な場合などにも、利用者の メールを調べて整理することがあるという。

使用ソフトによっては、証拠としてのヘッダー部分がスクリーンに現われない こともあるが、ジャリン内部の作動時計によるログオン時間、課金記録やデータ ベース、プロトコルによって起源となったメールを調べる事が可能であるという。 調査結果は、警察へ報告書を送るなど、法に基づいた行動を取らなければな らないとされるている。

 ミモスによると、この6年で10件の不法事件があったが、すべて昨97年以降に 起きたという。この結果を見ても、インターネットが昨年あたりから急速に浸透普 及してきたことがわかる。もちろん、実際の利用者は、KL近辺でも人口のせいぜ い数パーセント程度だが、携帯電話、FAXなどの他のメディアによって噂は簡単 に「拡大」され、その核がインターネットだったという意味で、その影響力は無視 できないものといえよう。

通常の噂ならともかく、マレーシアの国内経済情勢が悪化し、株は10年来の 最安値を記録したばかりだし、隣国インドネシアでは、再び起きる可能性がある 暴動を恐れて華人の国外脱出が続いているという、まさに最悪のタイミングで、 人種問題という、マレーシアではタブーともいうべき点に直接触れる噂を流した ことが政府・治安当局には看過できなかったといえる。
8月末の建国記念日、9月の英連邦大会(コモンウェルスゲーム)、APECビ ジネスフォーラム、さらに11月にAPECのサミットと、国際的な大イベントが目白 押しに控えている今、治安状態が不安なことは、政治的にも許せないのだ。

市民の視点からいえば、大量の無差別情報が自由に、容易に流通可能とな ったいま、何が正しくて何が間違っているのかは、利用者側で判断する、情報 選択への意志が必要となったといえる。


出典:8月7〜14日付、英字紙スター、ニューストレイツタイムス、マレー紙、ウトゥサン。

(Report by 田中葉子)


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Date: 08.19 11:43 PM
To: aisg-news@anr.org
From: Izumi Aizu
Subject:[aisg-news 92] マレーシアの近況印象報告

お盆休みも終わり、日本の暑さはすこしは和らいだでしょうか。

KLも、だいぶ涼しい日々が続いています。今年前半までの炎暑が嘘のようです。

さて、今週は、ひさしぶりにずっとKLに滞在していますので、経済と政治について、 いろいろな人からコメントを集めてみました。

はっきりしたことは、マハティール首相の力がきわめて強化されたこと、です。 その反対にアンワール副首相・大蔵大臣の発言力が大幅に低下したようです。 党内の権力闘争の結果なのでしょうか。6月の党大会、それに続く、首相の地方 遊説などを通して、アンワール派とみられる人が次々に地位を失っているようです。 インターネット経由で流されたインドネシア人による暴動説も、もちろんガサネタ でしたが、それをつい信じてしまうような不安感が蔓延していることも事実です。 ジョージ・ソロスなどの国際投機筋、あるいはシンガポールとの国境税関問題 など、「外敵」に非難を集中させるという首相の作戦は、それなりに奏効している のでしょうか。

経済の見通しは依然立っていません。というより、さらに相当悪化しているとい うのが正直なところでしょう。有力銀行である、アラブマレーシア銀行の親会社が 倒産したとか、「国民家電」のシンボルのはずのMEC社も親会社がいつのまにか 破綻したとか、電力会社も経営悪化、国民車のメーカー、プロトンとその持株会 社であるハイコム、DRBグループも経営不安の噂が出ているようです。

首相は、海外からの融資を要請し、難局を乗り切る考えのようですが、必要資金 (不良債権の手当て)が集まるかどうかは、依然不明です。

8月末の建国記念日はともかく、9月の英連邦大会は非常におおきなイベントに なるでしょう。その後、11月のAPECサミットを終わらせてから、解散総選挙という のが大方のシナリオのようです。

渋滞は解消し、町には奇妙な平静さがあります。もともとインドネシアやタイと比べ ても、貧困者層がずっと低いだけに、経済危機を吸収するだけの社会的余力はあ るようです。首相も地方農村での圧倒的な支持があるようで、どこかひところの自 民党と似た構造です。

日系企業は、円安のため、ローカル生産のメリットはまったくなくなり苦しい状況 が続いていることは否定できません。

というわけで、明るい話題はほとんどないのが、いまのマレーシアです。
欧米資本が、お買い得になって案件を買収する、ということくらいでしょうか。

雑然とした印象ですが、昏迷は深まる一方というのが、今回の結論です。

会津 泉


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Date: 08.22 7:10 PM
To: aisg-news@anr.org
From: Izumi Aizu
Subject:[aisg-news 93] AP-IFWP 報告

皆様へ

私見ですが、シンガポールでのAP−IFWP会議についての私の感想などを まとめてみました。まだどこに発表するかは決めていません。

結果的には日本の政府・産業界の関心・かかわりの低さを強く批判した ものとなりました。3日間の議論とその準備にかかわって痛感したので した。

皆様には、とくに協賛金をくださったり、ご尽力、ご協力いただいている ことは十分承知しているので、失礼かもしれないのですが、全体としての 傾向に強く疑問を感じたことを、あえて率直に書いてみました。

どうぞあしからずお読みくださり、もしよろしければご批判、コメントな どを頂ければ幸いです。

なお、9月中旬に、ボストンで最終まとめ会議が開催される可能性が高いの です。ただし、まず招待者のみでの「起草会議」で内容を詰め、その上で 公開会議を開くことになりそうです。

今後ともよろしくお願いします。


会津 泉



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