マレーシアからのご挨拶

アジアネットワーク研究所  代 表  

会 津 泉

(以下は1997年8月に、マレーシアから郵送した挨拶状で、

クアラルンプールに事務所開設して以来4カ月目、最初の報告でした)


皆さんには、たいへんご無沙汰しています。お変わりありませんでしょうか。

突然のお知らせで恐縮ですが、4月からマレーシアのクアラルンプールに「アジアネットワーク研究所」という現地法人を設立し、研究・実践活動を始めました。アジア全体のインターネットの普及に貢献することを主目標に、日本の企業のアジアでのネットワーク&ディジタル分野のビジネスに役立ち、日本の地域の人々とアジア諸国の人々との人的交流を推進する活動に取り組みたいと考えてのことです。いままでお世話になってきたハイパーネットワーク社会研究所国際大学GLOCOMには、いずれも研究員として在籍のまま新しい活動を支えて頂けることになりました。

* * *

 アジアで仕事をしようと考え始めたのはここ2、3年のことでした。具体的に決心したのは昨96年6月頃でした。それまで取り組んできた日本での様々な活動にある種の「限界」を感じ、自分にとっての新しい可能性を考え、模索・反芻した末の結論でした。1985年から、パソコン通信とインターネットの利用を通して、人間同士のネットワーキングの可能性、新しい社会をつくりだす可能性を探求してきたことの延長で、日本の外に生活と仕事の拠点をもって新しい活動にトライしてみようと思ったのです。

 ここ数年、北京、シンガポール、クアラルンプール、マニラ、香港などアジアの各地で、あるいはモントリオール、グラスゴー、ベルリン、シリコンバレーなどアジア以外の土地で、インターネットの普及にかかわるアジアの《若者》たちと出会ったことは、大きな契機となりました。残念ながら、いまの日本は「脂肪」がつきすぎ「成人病」にかかっている状態のように思えてなりません。私も含めて。

 自分たちの活動がアメリカを中心とする世界の新しい流れを日本国内に紹介することに偏りがちなことに、かねがね疑問を抱いていました。私たちにインターネットの本質を教えてくださった恩人の一人、ペンシルバニア大学のファーバー教授には、「GLOCOMでの君達の活動は、日本(の企業)にプラスになる方向ばかりで、反対に海外に貢献する部分が足りない。もっとアジアのための仕事をしてはどうか」と提案されていました。胸に刺さる言葉でした。なんとかアジアでのインターネットの普及にもっと貢献できないかと考え、APNG(Asia Pacific Networking Group)など、アジアのインターネット関係者による会議や活動にも積極的に参加してきました。

 95年6月、シンガポールを訪れた際、ある若いエンジニアに私のこうした思いを話したら、すぐにPAN(Pan Asia Networking)という活動を紹介されました。ベトナムやラオス、モンゴルなど、アジアの後発途上国にインターネットを普及させるプロジェクトが始まろうとしていたのです。現実はどんどん進んでいることを知らされました。このプロジェクトに日本から協力できないかと考え、96年5月、いくつかの企業・個人の協力を頂き、PANの主要メンバーを日本に招いてシンポジウムを開催してみました。しかし、残念ながら反応は芳しくありませんでした。端的にいえば、日本の企業・産業界は、目先のビジネスに直接結びつくこと以外には関心を示さないのです。また、国際協力・途上国援助にかかわる組織・人々は、インターネットなどの情報技術を経済発展に活用することの可能性をよく理解できないようでした。

 そこで、「企業には企業の利益になるものを提供して対価を頂き、その上で途上国にネットワークが普及するための活動にもかかわる」という「二正面作戦」をと思いました。事実、日本の情報通信関連の企業は、成長するアジア市場に強い関心を抱いています。しかも、インターネットやディジタル技術関連の分野では、ハードはまだしも、ソフトとコンテンツでは米国企業の技術力・商品力が圧倒的に優位で、日本企業の競争力はけっして高くありません。それだけに、日本の企業のアジア市場への関心の高さには、切実なものがあります。こうして辿り着いた結論が、アジアの地に新しい研究所を開き、アジア全域を対象にした研究と実践を行なってみようということでした。幸い、日本の企業の皆さんからの感触も大変前向きでした。

 よく「なぜマレーシアにしたのか?」と聞かれます。実は、最初はシンガポールが候補地でしたが、当のシンガポールの知人たちが口を揃えて、「これからはマレーシアが伸びるからぜひマレーシアにしろ」と言うのでした。様々な要因を比較した結果、クアラルンプールに決めました。マレーシアでは96年から新しい国家プロジェクト「マルチメディア・スーパー・コリドール(MSC)」がスタートし、そのイベントに招かれたこともきっかけとなりました。近隣関係を重視し、アジア全体の「共生」を主張するマレーシアの姿勢も魅力でした。NTTをはじめMSCにかかわる日本企業の存在も重要でした。マレーシア側の関係者の方々もとても好意的でした。最終的には、オペレーションコストの低さが決定要因となりました。

 4月11日、クアラルンプール(KL)に到着し、はや4カ月が過ぎました。充分準備したつもりでしたが、まだ事務所の体制も十分ではなく、研究活動も思いが空回りしています。資金的にも、様々なご支援をいただいていますが、まだまだ足りません。それでも、ここマレーシアでは、マハティール首相の強烈な指導力の下、世界でも唯一、政府自身が先頭に立って「マルチメディア」を旗印に掲げ、21世紀に向かう国造り実験に果敢に取り組み、その熱気が十二分に伝わってきます。大きな可能性を感じます。

 6月にはモンゴルで開かれたPANによるアジア全域のインターネット普及のための会議に参加し、インド、ブータン、パキスタン、ネパール、カンボジア、ベトナムなど、各国の熱心な人々と交流してきました。その直後にKLで開かれたインターネットの世界大会「INET'97」では、インターネットの最新動向に触れました。7・8月には、「SingaporeONE」という新しい国策プロジェクトの調査にシンガポールを訪れました。KLでもMSCに関心のある日本の企業を対象とするフォーラムを開催しました。日本からの視察・訪問・取材も毎週絶えません。アジア各国の動きを徐々に学びつつ、いよいよ本格的な活動に取りかかろうと思っております。大分をはじめとする日本の地域ネットの発展にも、CAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)の構築を中心に、アジアとの連携を図りながら貢献したいと思っています。

* * *

 私の無謀な試みを快く認め、応援してくださる公文先生をはじめとする多くの先輩、同僚の一人ひとりに深謝したいと思います。海のものとも山のものともつかないのに有形無形のご支援をくださる企業の皆さん一人ひとりに、心からお礼を申しあげます。いままで私を支えてくれた秘書の久保田香子さんに同行してもらい、またクアラルンプールでもマレーシア側、そして日本企業の皆さんに、暖かく迎えて頂いています。  環境が変わり、どこまで自分の力を発揮できるかわかりませんが、あせらず、本質的なことを忘れずに進んでいこうと思います。相変わらず、世界中を飛び回ることになるでしょう。2ヵ月に1回位は、日本にも行くつもりです。もし近くに来られる機会があれば、どうぞ電子メールで声をかけてみてください。

 MSCをはじめアジアのインターネットの発展状況に興味のある企業・団体・個人の方、会員制の研究会を始めました。ANRの主たる収入源でもあり、会費はあまり安くないのですが、ご関心があればお知らせください。資料をお送りします。

 メールアドレスは、izumi@anr.orgとしました。ホームページ(www.anr.org)もぜひご覧ください。  それでは、今後ともご指導・支援のほど、よろしくお願いいたしますとともに、末筆ながら皆様のご健勝とご発展を心からお祈りいたします。

1997年8月 アジアネットワーク研究所

代 表   会 津  泉

Pincipal,

Asia Network Research Sdn. Bhd.

No 20B, Taman Desa Business Centre, Jalan Desa Jaya,

Taman Desa, 58100 Kuala Lumpur, Malaysia

TEL: +60-3-780-8738  FAX: +60-3-781-0590

E-Mail: izumi@anr.org

http://www.anr.org

☆皆様のご住所・ご所属などが変更になっていましたら、よろしければご一報ください。 ご連絡は上記事務所、または《アジアネットワーク研究所東京連絡事務所: FAX: 03-3402-8183》までお願いします。


   | ホームへ | |電子メール |